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イタリア矯正歯科学会参加

2016.10.22

             
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こんにちは、有本博英です。

10/13-15にフィレンツェで開催された、イタリア矯正歯科学会に参加してきました。

海外の学会に参加というと、そういうことをしたことのない人にとってはすごいことをしているように思われることもありますが、ちょっとした勇気があれば誰にでもいけます。そして、日本の学会とはまた違う、大きな刺激を受けることができます。

もちろん、新しい技術や装置、ということもそうですが、雰囲気として違うのは、意見を戦わせる雰囲気です。

例えば今回『加速矯正のエビデンス』というセッションがありました。そこで、コネチカット大学のRavindra Nanda教授は、基礎研究では外科的侵襲をしても歯の移動速度に変化はないということを示されました。その後、ペンシルバニア大学出身のRaffaele Spena先生は、MOPやコルチコトミーの臨床応用ということで、とてもうまく臨床に外科的侵襲を取り込んだ発表をされました。そしてそのセッションのテーブルディスカッションがあったのですが、Nanda教授はテーブルが始まった早々に、君が外科的侵襲で歯が速く動くという前提なら僕は話すことは何もない、と言って席を立って出て行ってしまったのです。

自分の意見を持つ、その根拠となるデータを揃え、それを公開し、ディスカッションする。自分の意見と立場を明確にすることが前提となるのですね。

また、『リンガルか?アライナーか?』というセッションもありました。

そこではリンガルの先生が、アライナーで歯の3次元的なコントロールができるのか?と疑問を投げかけ、アライナーの先生は、アライナーでもきちんと診断すれば様々な症例を治すことができる、というようなディスカッションが進んだわけです。

そこでリンガルのDirk Wiechmann先生は、「ところで誰も言わないけど、アライナーの治療は100%患者協力に依存するだろ。俺はイタリアのことは知らないけど(Wiechmannはドイツ人)、イタリア人の患者はさぞ聞き分けが良くってみんな100%協力がいい患者ばかりなのかね。」というようなことを言ってしまった。

それを聞いたミラノ大学のAchille Farina先生は、「何言ってるんだ、協力というのは治療の一部だろう。癌患者に薬を出してのまなかったら治療がうまくいくわけないじゃないか。それでもその治療法が悪いとでもいうのか?」と興奮する場面がありました。トップの写真はまさにその時の写真です。

私は思うのですが、矯正治療というのは単に歯を綺麗に並べるということだけではありません。治療を通じて歯が健康な状態になり、健康な状態を維持する方法を学び、成長するということ。それらがあってこその矯正治療の成功であると考えています。 そういう意味ではリンガルの、「隠す」「協力がいらない」というのは患者の学びが少ないのではないか?せっかくの成長の機会を逃すのではないか?とも思えます。

逆にアライナーの治療は、100%患者協力が必要だからこそ、努力をして得られた自分の歯ならびを大切にしてもらえるのではないか、その間に歯磨きとか食習慣などを正しくしていくチャンスとなるのではないか、と思っています。

このようなディスカッションはなかなか日本で見ることはできません。創造的破壊という言葉がありますが、新しいことをするというのは過去にしてきたことの否定でもあります。真摯に意見を戦わせることで双方ともに刺激を受けて新しい進歩につなげる。そうした知的刺激は海外の学会の方が受けることが多いようです。

和を以って貴しという言葉がありますが、良くも悪くも日本は仲良し社会です。でも仲良しであることを強要されてしまうと、色々な意見を出しにくいという側面がある。それでは成長にはつながりません。 ちなみにこのリンガルvsアライナーのシンポジストたちは、私と同じホテルに泊まっていて、次の日朝ごはん食べにいくと、同じテーブルで仲良くお話ししてました。学問的なディスカッションと、個人としての付き合いは別なんですね。

自分の仕事なりプロフェッショナルな分野であれば、広い視野を持って働きたい。そのためには海外にでて、何がスタンダードで何が最先端なのかを知ること。自分の立ち位置を確認しながら前に進むこと。そうしたポジションに、常に自分を置いておきたいと思っています。

それにしてもフィレンツェ名物超特大Tボーンステーキのフィオレンティーナは美味しかったなぁ。

ではでは。

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