プロフェッショナル

Kokich 先生

有本博英 矯正歯科医

2013.07.26

             
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こんにちは。有本博英です。

左右の上顎側切歯の拡大写真を見せて、「左右どちらがインプラントか、わかりますか?」と聴衆に質問。どっちだろう?どちらもきわめて自然な色と形態と歯肉で両方天然歯と言われてもわからないくらい。で、その拡大写真がDissolveしてレントゲン写真に変わると、、なんと両側がインプラント

彼のプレゼンはいつもこんな調子でした。平易な英語でわかりやすく、驚きや発見がちりばめられている。スライドの文字はComic Sansのフォントで文字数は少なくシンプル。膨大な知識と、きわめて臨床的な研究から導かれたエビデンスをもとに、ストーリー性に富んだ流れるようなプレゼンは、いつも人気で立ち見のドクターであふれていました。

Kokich's rational, reasonable, stable.

rational, reasonable, stable.

その彼のプレゼンは、もう聞けなくなってしまいました。

フェイスブックの友達のドクターが、Vincent G Kokich Sr. が心臓発作でなくなったと記入していたのを見た時、何かの間違いであってほしいと思いましたが、彼の息子さんのページにこのタイトル画像が掲載されているのを確認して、ああ本当だったのだと、改めて残念さと悲しみがわき起こってきました。僕は彼を、かってに僕の

プレゼンのライバルと決めつけて、いつかあんなプレゼンができるようになりたいと思って来たのです。

Kokich先生のプレゼンが3日間も目の前で聞けるなんてチャンスはめったにないよと、友人を誘ってサンフランシスコのコースに参加したのは2006年の事でした。

彼のプレゼンは、ただわかりやすいというだけではなく、特にエビデンスに基づかない臨床はきわめて厳しく断罪します。アメリカ矯正学会で韓国の教授の論文発表したケースについて断罪したときは、知ってか知らずかその後がその教授の発表で、その韓国の教授は気の毒なくらいとても発表しにくそうでした。

で、私はこのサンフランシスコのコースに参加した時に、当時勉強し始めていたWilckodontics (PAOO) についてどう思うか聞いた所、全否定を食らいました。写真はその時に私たちがKokich先生を取り囲んでいる所ですが、まだエビデンスがしっかりしておらず、外科的侵襲も大きな手法にたいして明瞭に否定されたのを覚えています。

 

しかし否定されるとかえって勉強してやろうという気になるもので、それからいろいろと症例も上がり、基礎的研究も発表されて、PAOOという手法は、いまや成人の歯槽骨欠乏を伴う矯正患者にとても有効な手法と認められるようになりました。

そして、私が学会で見たKokich先生の最後の姿は今年のアメリカ矯正歯科医会で、奇しくも彼がこのPAOOのテーマのセッションで座長をする姿でした。開発者のWilcko兄弟と、ペンシルバニア大のVanarsdall教授がPAOOについてまとめた発表をした後、Kokich先生はWilcko先生に辛辣な質問を投げかけます。 「あなたは治療が早く『終わった』というが、あなたが『終わった』という基準は何か、教えてほしい。」

実はWilcko先生のケースは仕上げがやや甘い状態で早く装置を外しているのは聴衆みんなが気付いている事でした。Wilcko先生は、「Kokich先生やVanarsdall先生と同じ舞台で話せただけでも私にとっては夢のまた夢でした。今後もっといい症例が出せるように頑張ります。」というような返答をするのが精一杯でした。

Kokich先生のこのような態度は、私たちにとてもいろんな事を教えてくれたと思います。 臨床で決して妥協してはならない。 エビデンスに基づいた、科学的な診断をしなさい。 誰にでもわかるように平易な説明ができなければならない。 専門医同士の連携治療をする事で、より良い治療結果を求めなさい。 などなど。

Kokich先生が世界の矯正医に残した功績はとても大きく、真の科学者であり、教育者でした。 先生から直接学ぶチャンスがあった私は幸せでした。先生の精神を忘れずにいい仕事をしていきたいと思います。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

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