成長期のマウスピース矯正はどこまでできる?

福田浩之 矯正歯科医
2026.09.08
「子どもの矯正もマウスピースでできますか?」
最近、このような質問をいただく機会が増えています。
現在では、永久歯が生えそろう前の成長期のお子さんに対しても、マウスピース型矯正装置が使用されるようになってきました。
では、実際にマウスピース矯正は、成長期のお子さんに対してどこまで有効なのでしょうか?
今回は、この疑問について、**2026年に発表された「Clinical outcomes of clear aligners in growing children: An umbrella review」**を中心に、現在までに報告されている研究をもとに考えてみたいと思います。
まず、この論文では何が分かったのでしょうか?
この論文は、個別の研究を一つだけ評価したものではありません。
これまでに発表された**6つのシステマティックレビューをさらにまとめて評価した「Umbrella Review(アンブレラレビュー)」**です。
つまり、
「成長期の子どもにマウスピース矯正を行うと、実際にはどのような結果が得られているのか?」
というテーマについて、それまでに蓄積された研究をまとめて評価した論文です。
その結果、非常に興味深いことが分かっています。
歯の移動については、比較的良好な結果が報告されています
6つのレビューでは、いずれもマウスピースによる歯並びの改善、オーバージェットの改善、歯列の発育・拡大などの歯槽性の変化が報告されていました。
つまり、
「歯を動かして歯並びを整える」という部分については、成長期でもマウスピースは十分に有効である
ということです。
一方で、ここからが非常に重要です。
「歯を動かすこと」と「骨格を変えること」は違う
同じ矯正治療でも、
歯を動かすこと
と
顎の骨格的な問題にアプローチすること
は、同じではありません。
先ほどのUmbrella Reviewでは、歯並びなどの歯槽性の改善については比較的一貫した結果が得られていた一方、骨格的な効果についてはレビューによって結果が異なっていました。
6つのレビューのうち、
- 下顎に何らかの変化を示唆したもの
- 骨格的な効果はほとんど認められないとしたもの
- 現時点では十分なエビデンスがないとしたもの
があり、骨格的な効果については、まだ明確な結論には至っていません。
この違いは、成長期のマウスピース矯正を考えるうえで非常に重要です。
例えば「歯列を広げる」という治療
成長期のお子さんでは、上顎の横幅が狭いことがあります。
この場合、「歯列を広げる」という治療が必要になることがあります。
マウスピースでも、歯列の幅を広げること自体は可能です。
実際、今回のUmbrella Reviewでも、マウスピースによる**arch development(歯列の発育・拡大)**が報告されています。
しかし、
歯列が広がったこと=上顎の骨格そのものが大きく広がったこと
ではありません。
2026年に発表された別のシステマティックレビュー・メタ解析でも、成長期のマウスピースによる上顎拡大は主に歯槽性の変化によるもので、従来の拡大装置の方が骨格的な拡大や後方部の横方向の変化では大きな効果を示す傾向が報告されています。
つまり、マウスピースによる「拡大」が悪いということではありません。
何をどこまで広げたいのかによって、適した治療方法が変わるということです。
では、イースマイルではどう考えているのか?
ここまでの研究結果を見ると、私たちがなぜ「マウスピースだけ」にこだわらないのかが分かりやすくなります。
イースマイルでは、二期治療のタイミングでは、多くのケースで複数の矯正装置を組み合わせて治療を行います。
特に2級のケースでは、成長期であることを活かして、歯を並べることだけではなく、歯列や上下の顎の関係なども含めて治療を考えます。
そのため、ケースに応じてHylax、HG、LBなどを使用しながら治療を進め、その後の歯の排列や細かなコントロールにはマウスピースを活用します。
ここで大切なのは、
「マウスピースができないから別の装置を使う」
という考え方ではありません。
それぞれの装置には得意な領域があり、治療の目的に合わせて役割を分担させるという考え方です。
マウスピースは「仕上げの装置」なのか?
ここは誤解してほしくないところです。
マウスピースを単純に「最後に歯を並べるだけの装置」と考えているわけではありません。
成長期の治療においても、マウスピースは歯の移動や歯列のコントロールに非常に有効です。
一方で、成長期には「成長」という大きな要素があります。
だからこそ、
成長を利用して行う治療
と
マウスピースによる歯のコントロール
を分けて考えることが重要になります。
例えば、上顎の横幅を整える必要があればそのための治療を行い、上下の顎の関係を考える必要があれば成長期を利用した治療を検討する。
そして、それらによって治療の土台を整えたうえで、マウスピースによって歯を細かくコントロールしていく。
これがイースマイルの基本的な考え方です。
「マウスピースだけ」よりも「マウスピースをどう使うか」
2026年のUmbrella Reviewから見えてくるのは、成長期のマウスピース矯正が「できる・できない」という単純な話ではありません。
歯の移動については、マウスピースは有効です。
一方で、骨格的な変化については、まだ研究上の不確実性が残っています。
だからこそ、成長期の矯正では「マウスピースだけで全部治す」という発想ではなく、
今、この患者さんに必要なのは何を変えることなのか?
を考えることが重要です。
歯を動かすことが必要なのか。
歯列の幅を整えることが必要なのか。
上下の顎の関係を考える必要があるのか。
そして、その目的に対して最も適した方法は何なのか。
イースマイルでは、こうした考え方をもとに、成長期の治療を組み立てています。
マウスピースを使うことが目的なのではなく、より良い治療結果のために、マウスピースを含めた適切な治療方法を選択する。
それが、私たちが考える成長期の矯正治療です。
参考文献
- Clinical outcomes of clear aligners in growing children: An umbrella review.
Journal of the Indian Society of Pedodontics and Preventive Dentistry. 2026. - Effectiveness of clear aligners for maxillary expansion in growing patients: a systematic review and meta-analysis. 2026.
- Predictability of clear aligners in achieving planned dental arch expansion during mixed dentition: a systematic review and meta-analysis. 2026.
- The Effectiveness of Functional Clear Aligners for Class II Correction in Growing Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2025.
- Clear aligner therapy for early orthodontic treatment in children aged 6-13 years: A scoping review of clinical performance and evidence gaps. 2026.