矯正最新情報

顎変形症学会雑誌に総説論文が掲載されました.

2014.12.25

             
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gakuhen

こんにちは,有本博英です.

 

昨年の今頃から書いていた論文の掲載誌がクリスマスの朝に届きました.

 

『矯正治療における技術革新と顎変形症治療におけるパラダイムシフト - 顎変形症治療におけるミニマルインターベンション -』

 

というタイトルですが,これは,大阪歯科大学口腔外科学教授の覺道先生と2009年にBell教授の講演を聞いて以来,ずっと先生がおっしゃっていた,顎変形症治療における最小侵襲治療についての考え方の総説論文です.私は研究者ではないので,こうした論文を書くことはあまりないのですが,昨年の学会でのシンポジウムで発表した内容をもとに,覺道先生のご指導のもと,13ページに及ぶ論文を掲載していただき,素晴らしいクリスマスプレゼントとなりました.覺道先生,ありがとうございました.

 

当時書いたブログをこちらの方に再掲します.

 

 

顎変形症学会: Bell 教授の講演(ココログより再掲)

 

June 08, 2009(初出

 

仙台で開催された顎変形症学会に日帰りで参加した。目的は特許を取った咬合器デバイスの発表と,もうひとつは顎顔面外科の大家であるBell教授の招待講演を聴く為である。教授の講演は,本当は僕が参加した前日のプログラムだったのだがラッキーな事に日程が変更になって聴講することができた。

 

Bell教授は御年82歳。もう背も曲がっておられる.かつて顎変形症の外科手術で,上顎を切り,下顎を切り,オトガイを切り,できあがったらまるで別人のような治療結果を出して,80年代の『ここまでできる外科矯正』を体現したような方だ。そのBell教授の話を直接聞けるおそらく最後のチャンスと思って行ったのだが,,,その期待はいい意味で裏切られた。演壇に立ったとたん聴衆を見据える様に力強く話し始め,外科矯正の未来というタイトルで発表した内容は,なんと加速矯正の話から始まったのである。

 

RAP, Corticotomy, Wilckodontics, Distraction, AOS,,,これらの骨代謝を加速させるテクノロジーこそが,これから向かう道であると言う言葉が,Orthognathic Surgery,いわゆる外科矯正を極めたBell教授から発せられたというのはちょっとした驚きであった.外科矯正は骨の離断を伴うもので全身麻酔で行われ,それなりのリスクを伴う.日本でこそ保険適用される事も多いが,患者さんの金銭的・心理的・社会的・身体的負担は大きい。Bell教授が現役時代(82歳の今も現役?)にされてきた仕事はまさにこの外科矯正の体系化の仕事であり,ほとんどバイブルとなった教科書を書かれている。日本の多くの口腔外科医がBell教授を師匠として勉強して今の日本の顎変形治療があると言っても過言ではない。正直言って,僕はその頃の『昔話』が聞けるものと思っていた。

 

ところがとんでもない。師匠は弟子達を置いて先に進んでいた。

 

Frostが唱えた,いわゆるRAP (Regional Accelerated Phenomena)は骨に選択的に外科的侵襲を加えることによっておこる。RAP下では骨代謝が活発化し,歯槽骨では歯が移動しやすい環境になると言われている.Bell教授はこのRAPを応用した手法を顎変形症患者に用いる事で顎離断の本当に必要なケースと離断量を減らし,安全かつスピーディに顎変形症の治療を進める事こそが『未来』であると話された。

また,RAPを応用した方法として,コルチコトミーからレビューし,骨補填を加えたPAOO(いわゆるウィルコドンティックス)も紹介され,PAOOを用いる事で,歯の可動領域を拡張することができる事も紹介されていた。また,仮骨延長法・圧迫骨短縮術(Speedy Orthodontics)・AOSなど,外科的処置を併用する事で歯の移動を効果的に行い,結果として外科矯正のリスクを減らす事を包括的にまとめられたプレゼンであった。

 

大阪歯科大学口腔外科の覚道教授も,かねてよりプレートを用いた方法や圧迫骨短縮術には早くから取り組まれていて,オペをシンプルにしてリスクを減らす方法を模索しなければならないとおっしゃっていた。となりで一緒に聴講しながら「ほら,やっぱり間違ってなかったやろ!」と図らずもBell教授がおっしゃった方向性が同じであった事をかなり興奮気味に話されたのだった.

 

PAOOについては,歯周の観点からも注目されており,私も堂島ペリオインプラントセンターの浦野先生とともに4年くらい前から積極的に取り組んできた.矯正と歯周をの架け橋となる画期的な技術として今後患者さんのメジャーな選択肢に確実に入ってくるであろう事は感じていたが,外科サイドからもこの話を聞いて,わたしも,『間違ってなかった!』と,新たな驚きと感動を覚えた次第。結局真のインターディシプリナリーな知識の融合というのがようやく始まったという事だろうか。日本のドクターはこれについて行けるのか。

 

他にも成長期にプレートを用いて顎整形力を発揮させて外科矯正を回避させる方法など,私もアングルその他の学会で知り得た知識が包括的に紹介されていて,ある意味御自身で過去の業績を壊しながらも未来を見据えて前進されているその姿勢は真の学者の態度として尊敬できるものであった.11月には外科矯正のパラダイムシフトと題したセミナーもされるという。

 

『今日はこのようなすばらしい会に呼んでくれてありがとう。また次の機会にも日本で皆さんと議論できるのを楽しみにしています.』と,この82歳の教授は言い残して演壇を降りたのである。

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